マーレコラム医療従事者向けコラム
膝蓋骨脱臼(Patellar Luxation)とは? ― 小型犬に多い足のトラブルと治療法
膝蓋骨脱臼(PL)とは膝の曲げ伸ばしを助ける膝蓋骨が、滑車溝から逸脱する整形外科疾患です。膝蓋骨が脱臼すると、膝蓋骨に付着する大腿四頭筋の走行に異常が生じ、歩様の異常(特に膝の伸展制限)を認めることがあります。
PLは「先天性」及び「発育性」に発生することが多く、「外傷性」に発生することは稀です。整形外科疾患の中で最も遭遇頻度が高い疾患の一つであるものの、発生原因については現在も解明されていません。
膝蓋骨脱臼は、膝蓋骨が滑車溝から脱臼する方向により下記のように分類されます。
①内方脱臼(MPL):約20%の犬で認められ、特に小型犬での遭遇頻度が高い。
小型犬の膝蓋骨脱臼のうち95〜98%を占める
大型〜超大型犬の膝蓋骨脱臼のうち67〜87%を占める
②外方脱臼(LPL):まれ
③両方向性脱臼:トイ犬種で時折みられる
膝蓋骨脱臼は膝関節のみに影響するだけでなく、後肢全体の骨格変形を生じさせることが知られています。特に、MPLの骨格変形はよく研究されており、以下のような変形が生じます。大腿骨においては「内反股」「前捻角の低下」「遠位部の外旋や内反変形」「滑車溝の低形成」などが、脛骨においては「近位部の内旋・外反」「脛骨粗面の内方変位」などが認められます。こうした骨格変形は若齢な症例で急速に進行することがあり、早期診断・早期治療を必要とすることも少なくありません。
診断
触診により、「脱臼の方向」と「脱臼の程度」を評価します。一般的に、「脱臼の程度」はSingletonの報告を基に分類されます。
GradeⅠ:触診時に脱臼する程度。指で押すと脱臼。
GradeⅡ:膝関節の屈伸や脛骨の回旋で容易に脱臼し、自発的に整復される。
GradeⅢ:膝蓋骨は常時脱臼しているが、整復できる。
GradeⅣ:膝蓋骨は常時脱臼しており、整復できない。
治療法を選択する上で、X線検査やCT検査による後肢の骨格評価は重要です。
症状
症状の程度はさまざまです。症状が強い場合には、後肢の完全挙上や腰を下げたままの歩行を認めます。脱臼・整復を繰り返すような症例の場合には、間欠的な後肢跛行を認めることがあります。また、症状が一切なく偶発的に膝蓋骨脱臼を見つける症例も存在します。さらに、肢勢の異常を認めることも多く、MPLでは後肢がO脚となり、爪先は内方を向きます。一方、LPLでは後肢がX脚となり、爪先は外方を向くのが一般的です。
併発疾患
MPLの症例では中高齢になると前十字靭帯断裂を併発しやすいことが知られています。Campbellらの報告によると、MPLを有する症例の41%で前十字靭帯断裂が生じたとされています。さらに、MPL Grade Ⅳの症例では特に前十字靭帯断裂を生じやすいことも知られています。このようにMPLと前十字靭帯の関連はよく知られているものの、前十字靭帯断裂を併発しやすい原因については現在まで解明されていません。
中高齢になってから「後肢跛行が発現する」あるいは「後肢跛行が悪化する」場合には、前十字靭帯断裂などの疾患を併発していないかよく調べる必要があります。
治療
一般的には、症例の年齢や症状、骨格の変形などをもとに治療法を選択します。
・内科療法:症状が軽度な場合に選択されることが多いです。
体重管理・生活環境の改善・鎮痛薬・関節保護サプリメントにより、
症状・変形性関節症の進行を抑制する治療です。
・外科療法:「若齢」「症状が顕著」「骨格変形を認める」場合などに手術を選択する
場合が多いです。膝蓋骨を正常な位置に整復する根治的な治療です。
下記のように様々な術式があり、複数を組みわせることが一般的です。
(支帯解放術、関節包縫縮術、滑車溝形成術、脛骨粗面転位術…)
膝蓋骨脱臼の中でもGrade Ⅳは骨格変形が顕著である場合も多く、骨格の矯正などが実施可能な専門施設への紹介を推奨します。
手術後は1〜2ヶ月の運動制限が必要となり、その後ゆっくりと普段通りの運動へと戻していきます。運動制限の期間中はボール遊びやドッグラン、大きな段差などを避けるようにしていただきます。
予後
一般的に外科治療による予後は良好です。しかしながら、脱臼の程度が重度になると合併症の発生率が高まるとされているため、そうした症例では専門施設への紹介を検討する必要があります。術後合併症として最も多いものは再脱臼です。しかしながら、そのほとんどが軽度な脱臼で、日常生活において問題になることは稀です。
手術から2週間以内に手術のキズ(術創)を自分で舐めるなどして、術創が汚れると細菌が増殖し、追加の治療が必要になることがあります。そのため、手術から2週間程度はエリザベスカラーを着用していただく必要があります。
最後に
膝蓋骨脱臼は軽度であっても進行性に骨格変形や関節疾患を招く可能性があり、適切な時期に治療を開始することが予後の改善につながります。
「歩き方が気になる」「時々足を挙げる」といった早期の段階でご相談いただくことが重要です。
症例に応じた最適な治療方針をご提案いたしますので、診断・治療に関してご不安があればお気軽に当院までご相談ください。
