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犬は飼い主の言葉をどこまで理解している?最新研究から解説

「散歩」と言うと玄関へ向かい、「病院」と聞くと隠れる。そんな愛犬の姿に、「私たちの話をどこまで分かっているの?」と感じたことはありませんか。犬は一部の言葉を学習し、物の名前と結び付けて理解できる可能性が研究で示されています。2026年に発表された研究も交え、分かっていることと、まだ分からないこと、日々の伝え方を解説します。

犬は飼い主の言葉をどこまで理解している?

犬は、覚えた言葉を行動や物と結び付けて理解できます。ただし、人の会話全体を人間と同じように理解しているとまでは確認されていません。「おすわり」に応じること、物の名前を聞いてその物を思い浮かべること、長い文章の意味を理解することは、分けて考える必要があります。

例えば「散歩に行こうか」で喜んでも、「散歩」という音に反応したのか、リードを持つ姿やいつもの時間帯が手がかりになったのかは、その場面だけでは区別できません。研究では、こうした別の手がかりをできるだけ取り除いて調べます。

また、「言葉が分かること」と「指示どおりに動くこと」は同じではありません。物を持ってくる課題が苦手でも、名前と物の関係を全く理解していないとは限らないのです。

(Boros et al., 2024, Curr Biol.; Eötvös Loránd University, 2024)

「分かる」の種類 研究からの捉え方
合図と行動を結び付ける 「おすわり」などを学習できる
名前と物を結び付ける 脳波研究で理解を支持する結果がある
会話から新しい名前を覚える 特に学習が得意な一部の犬で確認
長い会話や文法を理解する 上記の研究では証明されていない

最新研究では何が分かっている?

近年の研究では、知っている物の名前を理解する力と、新しい名前を学ぶ力の両方が調べられています。2024年と2026年の研究は、それぞれ異なる側面を示しています。

2024年:犬は「ボール」と聞いて物を思い浮かべる?

犬が知っている物の名前を聞くと、その物に関する記憶が呼び起こされることを支持する結果が報告されました。単に言葉を合図に動くだけではない可能性を示した研究です。

研究では18頭の犬の脳波を測定し、飼い主が言った名前と、その後に見せたおもちゃが一致する場合・一致しない場合を比較しました。すると、両者で脳の反応に違いが見られました。

例えば「ボール」と聞いた後に別のおもちゃを見ると、予想との食い違いが生じた、と解釈できる結果です。ただし、頭の中の映像を直接見たわけではありません。また、この研究だけで、すべての犬が同じ単語を理解すると結論づけることはできません。

(Boros et al., 2024, Curr Biol.; Eötvös Loránd University, 2024)

2026年:人同士の会話を聞くだけで覚える犬もいる?

おもちゃの名前を覚えることが特に得意な犬では、人同士のやり取りを聞いて、新しい名前を学べることが報告されました。ただし、一般の犬すべてに当てはまる結果ではありません。

対象となったのは、すでに多くの物の名前を知る「Gifted Word Learner」と呼ばれる犬たちです。犬に直接話しかけず、人がおもちゃを扱いながら名前を使う場面を見聞きさせ、その後、名前を頼りにおもちゃを選べるかを調べました。

この結果は、犬の学習能力の豊かさを示しています。一方で、「留守番の予定を全部理解している」「人間の幼児と知能が同じ」といった意味ではありません。特定の課題で似た学習が見られることと、言語能力全体が同じであることは別です。

(Dror et al., 2026, Science; University of Veterinary Medicine Vienna, 2026)

言葉の意味と声の調子、どちらを聞いている?

犬は声の調子だけでなく、学習した言葉そのものにも反応していると考えられます。脳画像研究では、言葉と抑揚に関係する情報が、異なる処理のパターンを示しました。

2020年の研究では、犬が普段聞いている褒め言葉と中立的な言葉を、褒める調子・中立的な調子で聞かせました。結果は、犬の脳での単語の処理が、声の感情的な調子だけでは説明できないことを示しています。ただし、初めて聞く言葉の意味まで分かるという証拠ではありません。

(Gábor et al., 2020, Sci Rep.)

愛犬に伝わりやすくするには、どう話しかける?

教えたい合図をそろえ、できた行動にご褒美を結び付けることが基本です。米国獣医動物行動学会は、恐怖や痛みを与える方法ではなく、報酬を用いたトレーニングを推奨しています。

例えば、呼び戻す合図を家族で「おいで」にそろえ、近づいてきたら褒めたり、好きな遊びをしたりします。言葉を長く繰り返すより、犬が成功しやすい静かな場所で、短い練習から始めましょう。

おもちゃの名前を教えるときも、同じ物には同じ名前を使い、遊びの中で無理なく繰り返します。覚える数を競う必要はありません。顔を背ける、離れるなど、参加したくない様子があれば切り上げてください。

反応がないときは、大声にする前に、まだ覚えていないのか、周囲が気になるのか、体調に問題がないかを考えます。「分かっているのに反抗している」と決めつけないことが大切です。

(AVSAB, Position Statement on Humane Dog Training, 2021)

呼んでも反応しなくなったら、動物病院へ行くべき?

以前は反応していた呼びかけに気づかなくなった場合は、聴力や健康状態を確認するために相談してください。加齢による聴力低下のほか、耳の炎症などが関わることもあります。

耳を気にする、普段の生活音にも気づかない、急に反応が変わった場合は、早めの受診が勧められます。自宅で大きな音を鳴らして驚かせる必要はありません。いつから、どんな場面で反応が変わったかを記録しましょう。

高齢犬で、夜に眠らない、家の中で迷う、排泄の失敗が増えるといった変化が重なる場合は、認知機能の変化も検討します。ただし、反応の低下だけで認知機能不全とは診断できません。

診察では経過を伺い、耳や全身の状態などを確認します。必要に応じて聴覚や神経系の検査を検討し、原因に合わせて治療や生活環境の調整を行います。当院の診療については、診療案内をご覧ください。

(Merck Veterinary Manual, Deafness in Dogs, 2026; Behavior Problems of Dogs)

よくある質問

言葉の理解には個体差があり、覚えた数や一度の反応だけで判断することはできません。飼い主さまが気になりやすい疑問にお答えします。

犬は何個くらいの言葉を覚えられますか?

すべての犬に当てはまる個数は示せません。行動の合図を数えるのか、物の名前を数えるのかでも異なり、多くの名前を覚える特別な犬の成績を一般の犬の目安にはできません。

日本語より英語で教えた方が伝わりますか?

今回紹介した研究から、英語の方が優れているとはいえません。日常の合図では、言語の選択よりも、同じ行動に同じ言葉を使い、成功を積み重ねられる教え方を意識しましょう。

名前を呼んで振り向けば、自分の名前だと理解していますか?

振り向く反応だけでは、人間と同じ意味で「自分の名前」と理解しているかは分かりません。自分に注意を向ける合図として学んでいる可能性があり、名前への反応と自己認識は別の問題です。

毎日話しかければ、人の会話を理解できるようになりますか?

話しかける量だけで、会話全体を理解できるようになるとは確認されていません。日常の声かけを楽しみながら、覚えてほしい言葉は具体的な物や行動と結び付けるとよいでしょう。

おもちゃの名前を覚えない犬は、賢くないのでしょうか?

おもちゃの名前を覚える成績だけで、賢さ全体は判断できません。物の名前の学習は特定の能力であり、興味や経験、課題への参加しやすさも結果に関わります。

高齢犬には、もう言葉を教えない方がよいですか?

年齢だけを理由に、学習の機会をなくす必要はありません。聞こえ方や体調に合わせ、ご褒美を使った無理のないやり取りを続けます。反応の変化がある場合は、練習を増やす前に相談してください。

(AVSAB, 2021; Merck Veterinary Manual, Behavior Problems of Dogs)

まとめ

犬は、私たちの声を単なる音として聞いているだけではなく、学習した言葉と行動や物を結び付けています。一方で、理解の範囲には個体差があり、人間のように会話全体を理解しているとは限りません。

大切なのは、覚えた言葉の数よりも、愛犬に伝わる合図と安心して学べる関わり方です。呼びかけへの反応が以前と違う、耳を気にする、生活の様子が変わった場合は、千葉県館山市のマーレ動物クリニックへご相談ください。

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マーレ動物クリニック|千葉県館山市

参考文献

犬の言葉の理解に関する原著論文、研究機関による解説、獣医行動学・聴覚に関する資料を掲載します。

1. Boros M, Magyari L, Morvai B, Hernández-Pérez R, Dror S, Andics A. Neural evidence for referential understanding of object words in dogs. Current Biology. 2024;34(8):1750–1754.e4. DOI: 10.1016/j.cub.2024.02.029.

2. Eötvös Loránd University. Your dog understands that some words ‘stand for’ objects. 2024.

3. Dror S, Miklósi Á, Morvai B, Năstase AS, Fugazza C. Dogs with a large vocabulary of object labels learn new labels by overhearing like 1.5-year-old infants. Science. 2026;391(6781):160–163. DOI: 10.1126/science.adq5474.

4. University of Veterinary Medicine Vienna. How dogs learn by overhearing. 2026.

5. Gábor A, Gácsi M, Szabó D, Miklósi Á, Kubinyi E, Andics A. Multilevel fMRI adaptation for spoken word processing in the awake dog brain. Scientific Reports. 2020;10:11968. DOI: 10.1038/s41598-020-68821-6.

6. American Veterinary Society of Animal Behavior(AVSAB). Position Statement on Humane Dog Training. 2021.

7. Merck Veterinary Manual. Deafness in Dogs.

8. Merck Veterinary Manual. Behavior Problems of Dogs. 「Aging and Cognitive Dysfunction in dogs」