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犬の膝の靱帯が「どこに付いてるか」CT画像からわかる時代に?

犬の膝関節を支える前十字靱帯が、骨のどこに、どのような形で付着しているか——

これを正確に知る手段は、長らく術中の観察や解剖に限られていました。

ところが最近、CT画像とコンピューター処理を活用し、非侵襲的に付着部を三次元推定する技術が登場しました。

獣医整形外科の未来を感じさせる研究をご紹介します。

 

犬の前十字靱帯とその“付着部”

犬の膝関節には、いくつかの重要な靱帯がありますが、その中でも「前十字靱帯(CrCL)」は、膝の安定に欠かせない構造です。

この靱帯が断裂すると、跛行や関節の不安定性が生じ、整形外科的な介入が必要になります。

靱帯は、単なる“線”ではなく、ある程度の面積をもって骨に付着しているため、その位置や広がりを正確に把握することは、手術設計や今後の治療法開発において極めて重要です。

 

「DST」とは?―CTから靱帯の位置を予測する仕組み

2024年にScientific Reports誌に掲載された台湾大学の研究では、Deformable Shape Template(DST)という新しい手法が紹介されました。

この手法ではまず、CT画像から複数の犬の大腿骨と脛骨の3Dモデルを作成し、統計的な平均骨形状(SSM)を構築します。

さらに、解剖で明らかにされた靱帯の付着部(footprint)をテンプレート化し、それを他の個体の骨形状にフィットさせることで、その犬における靱帯の付着位置を予測できるという仕組みです。

 

どの程度の精度があるのか?

この研究では、27本の後肢標本を用いた検証が行われました。

その結果、前十字靱帯の付着位置は1mm未満の誤差で推定可能であり、側副靱帯でも2mm程度の誤差に収まっていたとのことです。

また、単なる「点」での位置ではなく、付着面の輪郭や広がりまで再現できる点も、臨床や研究における新たな可能性を示しています。

 

今後の応用に向けて

このDST技術は、現時点で直接的な臨床導入には至っていませんが、今後以下のような応用が期待されています。

  • 個体ごとの骨格に基づいた解剖学的構造の三次元的把握
  • 前十字靱帯損傷の診断や予後評価への活用
  • バイオメカニクス研究や術前シミュレーションの支援ツールとしての展開

今後の獣医整形外科において、画像ベースの精密診断や手技設計が進む中で、重要な基盤技術の一つとなる可能性があります。

 

実は、院長がその“基盤”を作った人物のひとりです

こうした靱帯付着部の再現や三次元化の流れは、最近始まったものではありません。

実は、当院院長・種子島貢司は、

犬の前十字靱帯および後十字靱帯の全束(2束構造)の起始・停止部を世界で初めて詳細に客観的に同定した研究者のひとりです。

骨への付着部位を立体的に解析し、機能的役割まで明らかにした論文が、国際誌に掲載されました。

この研究は、犬の膝関節の再建術や靱帯再生研究の出発点となる極めて重要な知見であり、

現在世界で進行しているDSTのような技術の“前提”を築いた基盤研究といえます。


参考論文(院長)

  • Tanegashima K. et al. (2019) Functional anatomy of the craniomedial and caudolateral bundles of the cranial cruciate ligament in Beagle dogs Vet Comp Orthop Traumatol. 32(3):182‑191. PMID: 33979878
  • Tanegashima K. et al. (2021) Functional anatomy of the craniolateral and caudomedial bundles of the caudal cruciate ligament in Beagle dogs Vet Comp Orthop Traumatol. 34(5):312‑320.

マーレ動物クリニックでは、こうした研究実績をもとに、

日々の臨床にも常に“本質を捉えた獣医療”を提供できるよう努めています。

最新の技術と、確かな基礎の両方を大切に——

これからも、信頼できる整形外科医療を追求してまいります。